●下町を愛し、その温もり、いつまでもと願う人々へ。
谷根千百景 (やねせんひゃっけい) 
剪画で訪ねる下町ぶらり歩き
 
石田良介著 B5変型・270頁 本体2,000円 ISBN4-8170-3124-7
 


 「谷根千(やねせん)」は、東京の文京区と台東区が接する谷中(やなか)、根津(ねづ)、千駄木(せんだぎ)の略称である。この名称は当初、季刊タウン誌名として三地域の頭の文字をとって編集者によって編み出され、それが今ではすっかり定着した。この地は、下町と山手の文化が共存した風情のある町として脚光を浴びてきた。谷中は寺と路地裏長屋の庶民の町、根津は権現社前の商業地域、千駄木は不忍通りを挟んで広がる
住宅地で往年文豪などが暮らしたところ。これら三つの町の懐かしい風景や人情あふれる日常を剪(せん)画(が)(切絵)で百景表現し、随想とともにまとめた。著者は20年間取材し漸くここまで作品化した。
 いずみたく、新内の岡本文弥、町の一人一人との付き合いもあたたかくて、著者の人柄そのままだ。
 
 ある時、いずみたくは著者に「谷中の実家へ仕事の途中に立ち寄ると、おふくろが、お前まだトラックの運転手をしてんのかい、友達はみんな、偉くなっちまったよと、泣くんだよ。辛かったなあ」といたずらっぽい目をしながら言ったことがある。
 私たちがいつも口ずさむ「見上げてごらん夜の星を」「いい湯だな」などの名曲を生んだ作曲家でミュージカル・プロデューサーだった、いずみたく。彼は谷中に生まれ育った。ドラマチックでまるでミュージカルのように波瀾万丈の人生。
 いずみたくの母は「私たち親のことは大事にする必要はない。私たちよりお前の友達を大事にしなさい。私たちは先に死ぬけれど、友達はお前と一生の付き合いになるのだから」と、彼が子供のころ言ったことがあった。このことを彼は大事に守った。周りの人たちへの気遣いは細やかでやさしかった。敬愛した母の後を追うようにして92年遠
く旅立った「下町の魂」いずみたくを、こう紹介している。
 宮沢賢治、朝倉文夫、岡倉天心、高村光雲・豊周親子、森鴎外、サトウハチロー、などとのゆかりも深く、この地域や人々との交流がおもしろい。ガイド地図付き。
 
著者紹介 いしだ・りょうすけ。1939年群馬県生まれ。明治大学、桑沢デザイン研究所卒業。石田設計事務所開設。84年谷中銀座リニュアル計画に参加、作品40点を街路灯に設置。この年より日本剪画展を毎年開催。90年9月より翌年6月まで朝日新聞東京版に「下町そぞろ歩き」を百点連載し、原画展を銀座和光で開催。これらの作品は同名の単行本として当社から刊行(現在品切)。東急百貨店、松坂屋、パリなどにても個展。日本剪画協会会長。
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